DeepL小説、Grammarly小説の未来(6)ー 翻訳初期の問題点 2/2

 

2.男性言葉、女性言葉が使えない

これは実は英訳をやってみるまで全く気づいてなかった。日本語版の会話文の中では、「オレ」と言えば男だし、「〜よね」と言えば女だし、これで話者の区別をつけていることが多かった。

二人の会話、あるいは少人数の会話であれば、◯◯が言った、とか、彼女が話した、とかいちいち書かなくてもだいたい話者の区別はつけられる。

でも英語だとそう簡単にはいかないのだ。念のために英語でも男性女性の話し方に区別があるかどうか調べてみたのだが、あるにはあるが、どうも微妙で日本語のようなはっきりした区別はつけにくいようなのだ。ましてやネイティブでもない自分にそんな高等技が使えるわけもない。

ということは、話者が誰だかよくわからなくなってしまう場所には、日本語版にはなかった、◯◯が言った、彼女が話した、を会話の後か前にいちいち付けていかなければならない。

これは結構ショックだった。翻訳をしながら、いちいち会話文の場所に書き込むという作業が発生した。しかも、その付け加え方がよくわからない。いくつかの英語の本を見てもあまり統一されてるとも言えない。

結局、日本語の鉤括弧にあたる” “内の最後はピリオドにせずにコンマに変え、そのあとにsaid ◯◯.と書くというルールだけ覚えて会話文の後に置いたり、会話文の前後の語り手の文として書いたりと、一番負担のかからない形でやった。

 

3.語り手が語る言葉の時制

これは一番悩んだことかもしれない。この物語の語り手は一応客観的に語るのだが、たまに主人公と準主人公の主観が乗り移るような奇妙な存在として描いてある。その奇妙さの表現も含めて、語りの時制をどうすれば良いのかがわからなかった。

日本語版では、あまり考えることもなく過去形と現在形が混じり合った形で書いていた。日本語の場合には、過去形だけで書くとおかしな文章になってしまうからで、これはわりと普通のことだと思う。DeepLもそこそこ忠実に日本語の時制に合わせた訳をしてくる。

しかし、英語ではそうもいかないようだ。ネットで調べてみると、少なくとも昔は過去形で書くのがスタンダードだったらしい。

でも現在はそれほど画一的ではなく、特に臨場感を感じさせるような場面には現在形を使うこともあるそうだが、どうやら一つのパラグラフの中で混じって出てくるような書き方は避けた方がよさそうだった。

ちなみに、現在まで通用する普遍的な事実を書く時には現在形を使うというのもあり、これは納得できる話だ。

そこでどうしようかと思ったのだが、初期の頃は割と自由にやってしまおうと思っていた。なので、躍動感を出す場所ではどんどん現在形を使って書いていた。

しかし翻訳が進み、いろんな経験を経るにつれ、心配になってきて保守的に過去形を多用するようになってしまった。

が、後期になると溜まっていたフラストレーションが噴き出したようで、やはり思った通りにやろうと何か所かを現在形に戻したりもした。パラグラフの中で混ぜてしまった部分もある。

一番悩んだのが冒頭の一文で、最初は現在形。もちろん日本語版も現在形になっていた。しかし、ここは過去形に変えた。冒頭で違和感を持たれるのも嫌なので。

 

4.その他

日本語に主語がない

日本語は結構あいまいに主語のない文章も書く。特に小説なんかはそうだろう。そこはDeepLがテキトーな主語を入れてきたりするのでその修正は必要だ。

数字

英文では文の冒頭にアラビア数字を持ってこないようだ。確か、Grammarlyが指摘してくれてそのことを知ったように記憶するが、いま試して見たらなんとも言わなかった。ちょっとハシゴを外された感じ。

あと、10以下の数字はアルファベットで書き下せということらしい。

いずれも絶対ではないが、検索すれば説明してくれている人がいる。

人物名と性別

実は主人公は女性なのだが、付けた名前が最近は男性に多い名前だったらしいのだ。そんなこと全く知らなかった。

それで何が起こるかというと、DeepLがその主人公にheとかhimとかを使ってしまうのだ。まあ書き換えればいい話なのだが、ひょっとすると、前後の文との関係で翻訳の精度が落ちてしまうのではないか、という気もする。

日本語版の前後の文の中では、その主人公を指して彼女という言葉を使うこともあるからだ。その両者の関係がわからないと、翻訳も違ってくる可能性があるということだ。

今回一括翻訳前の日本語文の前処理としては、DeepLに馴染むように鉤括弧「 」を”  “に変えただけだったが、もしかすると主人公は花子などの典型的な女性の名前に変えておいた方が良かったのかもしれない。

しかし、異なる名前であの作業をやるのも嫌だなあ。悩ましいところだ。

 

 1 2 3 4 5-1 5-2 6-1 6-2 7-1 7-2 7-3 8 

 

アダムの選択(亜東 林)

 

手のひらの中の彼女(亜東 林)

 

シライン(亜東 林):改訂版

 

LIARS IN SPACE (Rin Ato):シライン英訳版

英訳の経緯はこちら

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です