こんな風に発展してきたマレーシアのバティック産業ですが、1990年代にはオリジナリティーや創造性の成長が弱まり、新しい製品や市場の開発にもあまり熱がこもらなくなったそうです。そんな中、2000年代に入ってバティック産業の再活性化の取り組みが行われています。第5代首相の夫人が音頭をとってバティックを世界に広めていくための様々なプロモーションが行われたり、数々のコンペティションやエキシビションが開催されたりしています。2008年には公務員は木曜日にバティックを着るよう奨励され、今も政府機関に行くと普段はスーツを着ている男性がカラフルなバティックシャツを着ているのが見られます。マレーの女性の多くは普段からカラフルなバジュクロンという民族衣装を着ています。普段着には手作りのものは少ないかもしれませんが、バティックの柄を使ったものが多く見られます。また、お祝い事などのあらたまった会合がある時や、ホテルのボールルームで行うようなレセプションの際には、男女とも民族にかかわらずシルクのカラフルなバティックで着飾って参加することもめずらしくありません。
マレーシアではこのようにバティックはごく身近にあるものですが、私の読んだ本の中ではマレーシアのバティック産業の将来については様々な考えがあるようです。ある人たちは21世紀はバティックのモチーフを取り入れた大量生産の時代であり、手作りのバティックはスカーフやクッションカバーやテーブルクロスなど小さなものに限られて行くだろうと。また他の人たちは、バティックにあくまでこだわり、あらたな状況への適応やイノベーションをしていくべきだと。実際にバティック産業に関わる若者が増え続けており、作家のアイデアや能力をフルに表現したバティックは裕福な人や理解者に売れているではないかと。
この本の著者はマレーシアのバティックの将来はこの中間のどこかにあるのではないかと言っています。
バティックを知る人たちはバティックを美しく作り上げる技術や熟練、素材などの素晴らしさを知っており、その不可欠の要素である「手作り」の良さを好むことから、手書きや型押しによるバティックはこれからも間違いなくマーケットで一定の位置を占めるだろう。一方で、技術が進歩した今、デジタル技術や最新のプリンティング技術を使えば従来のバティックが表現してきたものと同様の柄の布を大量安価に生産することもできる。これらをバティックと呼ぶことには当然反対もあるが、高価な手作りのものを使う余裕はなくとも、バティックのコンセプトやマレーシアの文化を大切に考える人たちは、これからもこういった製品を大いに利用し続けるだろう、、、と。
マレーシアのバティックが広く世界で使われるようになるにはまだまだ課題もあり、色や柄も従来のものに制限されることなく今のファッショントレンドに合うようにしていかなければならないと、世界的に活躍するマレーシアのファッションデザイナーは言っているそうです。また、マレーシアでは主に合成染料が使われてきましたが、環境への負担の懸念から、自然の染料を使用したり新しい自然染料を求める動きもあり、新しい時代に適応して行く努力も行われています。
バティック=ろうけつ染めという観点からマレーシアのバティックを見ていると、これ本当にバティックと呼ぶの?と疑問が浮かんでくるものがあります。私にとってこれはずっと疑問だったし、バティックについては時折インドネシアからマレーシアに対して「文化を盗むな」といった非難と論争も起こっているので、今回インドネシアとマレーシアのバティックの歴史的な関係や違いについて調べてみようと思った次第です。このようにマレーシアでバティックと呼ばれているものは、伝統的な手法のほかにもいろんな技術を使って作られており、中には確かにこれバティックと呼ぶの?というものもありますが、私としてはこうした技術の種類や、手作り、大量生産に関わらず、マレーシア国外ではいまいち知名度のないマレーシアンバティックあるいはその文化を受け継ぐものが、もっともっと発展していってくれることを期待しています。
参考にした資料は以下のとおり。マレーシアのバティックに関する情報は本当に少ししか見つからず、多くは1. からです。
よくわからないことや曖昧なことはできるだけ書かないようにしましたが、もしだいじなことがごっそり抜けおちていたり明らかに間違っている内容があれば指摘していただければ幸いです。
1.MALAYSIAN BATIK : REINVENTING A TRADITION
2.ジャワ更紗ーいまに生きる伝統
3.UNESCO INTANGIBLE CULTURAL HERITAGE: INDONESIAN BATIKのページ(https://ich.unesco.org/en/RL/indonesian-batik-00170)
4.Batik-Wikipedia, Malaysian Batik-Wikipedia
5.その他web上の情報など