神社のこと(8)ー リス

この神社はリスが住むような自然の中にはありません。

だから、リスを見た!という証言が近所の子供たちから出始めた時には衝撃が走りました。なにせ、カブトムシの幼虫がいた(実際はたぶんコガネムシの大きいやつの幼虫だと思う)というくらいで騒ぎになるところですからね。

まあ、間違いなくどこかの家から逃げ出したリスが住み着いたんだと思いますが、しばらくはこのリスを捕まえることが子供達のあこがれに。

私も御多分にもれず、という感じでした。はっきり覚えていませんが、一度境内を走っているのを見たはずです。

そして、2回目。なぜかたまたま神社の裏に一人でいた時のこと。いました。走っていましたが、神社の建物を囲む塀の中に入ってしまいました。

このあたりの神社の標準的な構造なのかどうか、神社の本殿は石垣を組んだ土台の上に乗せられています。

そこに向かって拝むための拝殿が正面にあり、本殿と拝殿の間の距離を少し開け、二つの建物はブロック塀で繋がれています。

つまり、本殿と拝殿の間の空間は中庭のようになり、2メートルはあろうかという塀で囲まれ、中には入れないようになっています。

リスはその中に入ってしまいました。

しかし、少年は諦められませんでした。もう半世紀以上前のことだから白状しますが、その2メートルの塀を乗り越えて中に入ってしまいました。

ふだん臆病で、他の子供達がやっていることはいつも遠目に見て、まずいことが起こらなければ自分も真似してやってみる、という慎重な子供だったのが、あの小さな動物に惑わされて、我を忘れてしまったということです。

塀を越えるのも容易ではありませんでした。石垣とブロック塀の境目の段差を利用し、足がかりを見つけながらなんとか落ちずに乗り越え、中に飛び降りました。

リスはいました。どれくらいの時間そこに居たのか覚えてませんが、最後はリスを追いかけて社殿のすぐ前まで行き、前を駆け抜けるそのリスをあわや掴むというところまでいきました。

左手の薬指と小指を駆け抜けるリスの尻尾がふわっと触ったのを覚えています。

そのあと誰にも見られず(たぶん)、うまく中から出ることができたのは幸いでした。

あの、神様の目前でおしいところで取り逃がしたというのは、なんの人生の暗示なんでしょうかね。しかし、もしあの時尻尾を掴んでいたら、なんというか現実感がありすぎて、今となっては良くなかったような気もします。

 

アダムの選択(亜東 林)

 

手のひらの中の彼女(亜東 林)

 

シライン(亜東 林):改訂版

 

LIARS IN SPACE (Rin Ato):シライン英訳版

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DeepL小説、Grammarly小説の未来(番外)ー こんなのあったらいいなあ

DeepLで翻訳している間に考えた、こんなのあったらいいなあという機能を書いておきます。

1.用語集

日本語にもぜひほしい。技術的な問題があるのか、それとも日本語版が後発だから無いだけなのかわからないが、ぜひこの機能を装備してほしい。

2022.5.7追記:今日DeepLを見たら日本語←→英語の用語集の機能が搭載されていました!

シライン(亜東 林)

 

2.部分的読上げ機能、速度調節

前に書いたとおり、この読上げ機能が非常に役立った。しかし、操作の際はペーストした文章の冒頭からしか読み上げてくれず、途中の文章を何度か聞き直す場合には、いちいちもう一度冒頭に戻るか、前の文章を削除しなければならなかった。

例えば、カーソルの位置から読上げ開始してくれるとか、選択範囲だけ読み上げてくれるとかの機能があると大変うれしい。

速度調節も可能ならありがたいのだが。

LIARS IN SPACE (Rin Ato)

 

3.英語から日本語へ翻訳するときの主語

日本語の文章に主語が欠けがちなのはよくわかる。DeepLで英文を日本文に翻訳したときにも、日本語らしく主語を抜いた文章が出てくるのだが、少々抜けすぎて違和感のある文章になっている時がある。

特に、「彼ら」という言葉が過剰に省略されているような印象を受けた。おそらく、英文上でtheyが実際に特定の人々を表す場合と、ごく一般の人々を示す場合があるようなところが理由ではないかと思う。

特定の人々を指して、彼らと表現してほしい時に出てこないことがあるので、もう少し表面に出るようにならないものか。

手のひらの中の彼女(亜東 林)

 

4.話者設定、キャラクター

DeepLのメインターゲットはおそらくビジネスユースだと思うので無理だとは思うが、できればいいなあと思ったのは、会話文の話者の指定だ。

用語集で単語の定義をするように、何人かの話者を事前に設定して、各々の性別や場合によっては年齢、もっと言えばキャラクターまで設定して、入力文で誰の発言かを指定してやるとそれに合わせた翻訳が出れば嬉しいと思った。

でもちょっと複雑すぎますね。それにディープラーニングによるAIには馴染まないかもしれませんね。

 

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アダムの選択(亜東 林)

 

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DeepL小説、Grammarly小説の未来(8)ー メリットとデメリット、感想

たった一回やってみただけだが、小説をプロでもない自分が翻訳したというこの経験について、感じたことを書いておく。

1.メリット

元の小説を修正できる

誰がなんと言おうと、著者が自分で翻訳することには圧倒的なメリットが一つだけある。それは、どんどん元の小説を修正していけることだ。

やはり他言語に変換する過程で、元の日本文にたくさんのアラが見つかる。言語的な事の他にも、様々な場面をじっくり考える機会が与えられるので、「あれ?矛盾している」というようなことはしょっちゅうだった。

プロの校閲者の目を経ているわけでもなく、日本文だけを読んでる時には気づかなかったのだ。

プロの作家の作品をプロの翻訳家が訳す時はどうしているのだろう?校閲の段階で、そんな初歩的な問題は全て潰されているということなんだろうか?英語版を作るような場合は既に評価が確立された作品だし、その手の問題は起こらないということだろうか。

費用

大きなメリットはやはり費用かな。たしかに、DeepLとGrammarlyの有料契約をしたが、初年度はいずれも1万円前後だった。あれだけ使い倒せばこの料金は安い。

ちなみに、Grammarlyは毎週一回、前週の自分のパフォーマンスについてメールで報告してくる。最盛期には「あなたは先週Grammarlyユーザーの98%よりも生産的でした」という報告が何度もあった。

トータルで、この一年で約120万語をチェックしたそうだ。同じ文章を何度もチェックにかけているから、確かにそのぐらいにはなるだろう。

 

2.デメリット

やはり質の問題は大きい。前に書いたとおり、いくら翻訳ツールが優秀でも、結局最後に品質の制約になるのは自分だ。

私の場合はDeepLを辞書のように使ったと言えるかもしれない。普通の辞書ももちろん使ったが、普通の辞書が単語の辞書なら、DeepLは表現方法の辞書とでもいうべきものだった。

多数の表現方法から一つを選んで、それを組み合わせて文を作っていくのだ。その組み合わせ方は無限にあるから、そこで自分の能力が表に出てしまう。

もちろん、DeepLが最初に選んだ組み合わせが表現方法としてベストな場合も多くあっただろう。

しかし、元の日本文の不完全さや、主語の性別や単複の問題などから、結局ほとんどの文については手を加えることになった。元のDeepLの翻訳がそのまま残っているものはたぶん数%といったところだろう。

時間

もう一つのデメリットは時間だ。日本文を書いている時も国語辞書は頻繁に引くが、それでも書いたものの文法的なことやできあがった文意については、自分の判断でさっさとOKを出していく。

でも英文ではそうはいかなかった。特に終盤では神経質になって、ほんの少しの修正を施した時も、Grammarlyには一応かけることにしていた。そこで間違いが出ないのならそんなことはやめるのだが、やはり出てしまうのだ。

スペルミスを初め、苦手な単複の一貫性や冠詞の有無などのミスをGrammarlyが発見してくれることはよくある。

今回1年間かかったが、他の用事もやってたし、本の表紙づくりに熱中していた時期もあったので、翻訳に費やしたのは、平均すれば1日に3時間程度だったと思う。しかし、1日の作業量を増やすことは困難だ。5時間もやれば限界がくる。睡魔との闘いだ。

でも、次にもし同じことをやれば三分の二ぐらいの時間でできるだろう。スキルも上がったし、ツールの使い方にも慣れたからだ。

 

3.終わりに、感想

このブログを書くにあたって調べたら、一年前にこの翻訳に取り掛かった時は、DeepLで日本語を取り扱えるようになってからまだ一年経つか経たないかの時期だったことを知った。

ということはこんな大胆なことをやった人はまだあまりいないのかも知れない。もちろん、他の翻訳ツールもあるからやった人はいるだろうが、正直に言って私自身は、知る限りの他のツールでこれをやる気になったとは思えない。

翻訳の質のほかにも、使い勝手の面でもDeepLは優れていると思う。word文書で二百数十ページを数分で一括翻訳してくれたのにも驚いた。

まあ、これをやったことと小説が売れるかどうかという話は全く別問題だ。でも、webができ、電子書籍のマーケットプレイスができ、そしてこういった優秀な翻訳ツールができ、少なくとも個人の考えに世界中がアクセスできるようになったことは画期的だと思う。この流れが、ずっと加速しながら続いていって欲しい。この小説で描きたかったこともまさにそういうことだった。

翻訳には作業の側面があり、日本語で物語を書いているよりも創造性という観点では劣るものの、決して思うほど辛いものでもなかった。初めて翻訳文を見た時には、横文字になった自分の小説がとてもかっこよく見えたものだ。

脱線すると、日本文の方も英文と対照して見るために横書きに変換したのだが、どうも横書きにすると軽い感じがしてしまう。やはり日本語は縦書きだ。

この一年、根気の塊のようになってやってきたわけだが、コロナ禍のせいで家に篭らねばならないという、特殊な状況があったからやれたことかもしれない。これが経済的な実りを生むとも思えないが、かと言って決してこの努力が無駄だったとは思っていない。ついに出来上がったのだから。

これを作ることに一歩を踏み出させてくれた、AI翻訳ツールの開発者の皆さんに感謝します。と、謝辞にも書きました。

 

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