DeepL小説、Grammarly小説の未来(8)ー メリットとデメリット、感想

たった一回やってみただけだが、小説をプロでもない自分が翻訳したというこの経験について、感じたことを書いておく。

1.メリット

元の小説を修正できる

誰がなんと言おうと、著者が自分で翻訳することには圧倒的なメリットが一つだけある。それは、どんどん元の小説を修正していけることだ。

やはり他言語に変換する過程で、元の日本文にたくさんのアラが見つかる。言語的な事の他にも、様々な場面をじっくり考える機会が与えられるので、「あれ?矛盾している」というようなことはしょっちゅうだった。

プロの校閲者の目を経ているわけでもなく、日本文だけを読んでる時には気づかなかったのだ。

プロの作家の作品をプロの翻訳家が訳す時はどうしているのだろう?校閲の段階で、そんな初歩的な問題は全て潰されているということなんだろうか?英語版を作るような場合は既に評価が確立された作品だし、その手の問題は起こらないということだろうか。

費用

大きなメリットはやはり費用かな。たしかに、DeepLとGrammarlyの有料契約をしたが、初年度はいずれも1万円前後だった。あれだけ使い倒せばこの料金は安い。

ちなみに、Grammarlyは毎週一回、前週の自分のパフォーマンスについてメールで報告してくる。最盛期には「あなたは先週Grammarlyユーザーの98%よりも生産的でした」という報告が何度もあった。

トータルで、この一年で約120万語をチェックしたそうだ。同じ文章を何度もチェックにかけているから、確かにそのぐらいにはなるだろう。

 

2.デメリット

やはり質の問題は大きい。前に書いたとおり、いくら翻訳ツールが優秀でも、結局最後に品質の制約になるのは自分だ。

私の場合はDeepLを辞書のように使ったと言えるかもしれない。普通の辞書ももちろん使ったが、普通の辞書が単語の辞書なら、DeepLは表現方法の辞書とでもいうべきものだった。

多数の表現方法から一つを選んで、それを組み合わせて文を作っていくのだ。その組み合わせ方は無限にあるから、そこで自分の能力が表に出てしまう。

もちろん、DeepLが最初に選んだ組み合わせが表現方法としてベストな場合も多くあっただろう。

しかし、元の日本文の不完全さや、主語の性別や単複の問題などから、結局ほとんどの文については手を加えることになった。元のDeepLの翻訳がそのまま残っているものはたぶん数%といったところだろう。

時間

もう一つのデメリットは時間だ。日本文を書いている時も国語辞書は頻繁に引くが、それでも書いたものの文法的なことやできあがった文意については、自分の判断でさっさとOKを出していく。

でも英文ではそうはいかなかった。特に終盤では神経質になって、ほんの少しの修正を施した時も、Grammarlyには一応かけることにしていた。そこで間違いが出ないのならそんなことはやめるのだが、やはり出てしまうのだ。

スペルミスを初め、苦手な単複の一貫性や冠詞の有無などのミスをGrammarlyが発見してくれることはよくある。

今回1年間かかったが、他の用事もやってたし、本の表紙づくりに熱中していた時期もあったので、翻訳に費やしたのは、平均すれば1日に3時間程度だったと思う。しかし、1日の作業量を増やすことは困難だ。5時間もやれば限界がくる。睡魔との闘いだ。

でも、次にもし同じことをやれば三分の二ぐらいの時間でできるだろう。スキルも上がったし、ツールの使い方にも慣れたからだ。

 

3.終わりに、感想

このブログを書くにあたって調べたら、一年前にこの翻訳に取り掛かった時は、DeepLで日本語を取り扱えるようになってからまだ一年経つか経たないかの時期だったことを知った。

ということはこんな大胆なことをやった人はまだあまりいないのかも知れない。もちろん、他の翻訳ツールもあるからやった人はいるだろうが、正直に言って私自身は、知る限りの他のツールでこれをやる気になったとは思えない。

翻訳の質のほかにも、使い勝手の面でもDeepLは優れていると思う。word文書で二百数十ページを数分で一括翻訳してくれたのにも驚いた。

まあ、これをやったことと小説が売れるかどうかという話は全く別問題だ。でも、webができ、電子書籍のマーケットプレイスができ、そしてこういった優秀な翻訳ツールができ、少なくとも個人の考えに世界中がアクセスできるようになったことは画期的だと思う。この流れが、ずっと加速しながら続いていって欲しい。この小説で描きたかったこともまさにそういうことだった。

翻訳には作業の側面があり、日本語で物語を書いているよりも創造性という観点では劣るものの、決して思うほど辛いものでもなかった。初めて翻訳文を見た時には、横文字になった自分の小説がとてもかっこよく見えたものだ。

脱線すると、日本文の方も英文と対照して見るために横書きに変換したのだが、どうも横書きにすると軽い感じがしてしまう。やはり日本語は縦書きだ。

この一年、根気の塊のようになってやってきたわけだが、コロナ禍のせいで家に篭らねばならないという、特殊な状況があったからやれたことかもしれない。これが経済的な実りを生むとも思えないが、かと言って決してこの努力が無駄だったとは思っていない。ついに出来上がったのだから。

これを作ることに一歩を踏み出させてくれた、AI翻訳ツールの開発者の皆さんに感謝します。と、謝辞にも書きました。

 

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英訳の経緯はこちら

DeepL小説、Grammarly小説の未来(7)ー AI翻訳で出会った現象 3/3

3.DeepLの不思議な振る舞い

つづき

最初はぞっとした

翻訳を始めた頃、あるいは、翻訳を始めるにあたって少なめの文章でテスト翻訳をしているころだったかな。たしか英語から日本語への翻訳文の文頭に「…」という、なんと呼ぶのか知らないが、躊躇いを表したり、文尾であればことばの余韻を残したりする表現が現れたのだ…

これは今でもたまに出くわす。もちろん、元の文にはそんなものはなく、普通に言い切っている文章だ。

しかし、これを初めて見た時には驚いた。その前後の文脈からまさにぴったりの表現だったからだ。ええっ!こんなことまでできるのか、と。

たまたまその時は真夜中の2時か3時頃だった。薄暗い部屋の中で眺めているディスプレイに、「どうだい?この訳は気に入ったかい?」とでも表示されたらどうしよう、とゾクゾクっとしたのをよく覚えている。

実は最近も興味深い現象に出くわした

どう書こうかと思ったが、本の宣伝も兼ねてその時のスクリーンショットを下に貼っておく。

この本をamazonに出してから10日ほどした頃、何かの役に立つかもしれないと思い、この本に関する英語の簡単なホームページを立ち上げた時のことだ。

著者の言葉として数行のメッセージを載せておこうと、DeepLに翻訳してもらった時の画面である。もちろんまだ一切修正はしていない、一番最初の翻訳文だ。

(クリックで拡大します)

よく見比べてほしい。右側の英文のAmazon.co.ukの部分だ。

左側の日本文にはそんなこと一言も書いていない。DeepLが、Amazon.co.ukで買うことができるという文を付け加えてくれているのだ。(敢えて好意に感謝する「くれて」をつけておく)

UK(イギリス)を選んだというのも驚きだ。実は私はこの本をUKのサイトから入って作ったのだ(ただし、結局は.com、つまりたぶんアメリカが管理するサイトに誘導される)。

さらに、このサイトでは本を売るメインターゲットの国はどこかと聞かれるので、UKだと登録してある。ひょっとすると、DeepLはネットでサーチしてそれを知ったのかと思ってしまう。各国サイトでの売値を比べれば、UKがメインであることはわかるかも知れない。

これがもし人に翻訳してもらっているのなら、間違いなく「ああ、親切にこんな文章を付け加えてくれたんだな」と思ってしまう。

もう少し驚きの理由を説明すると、この小説にはエイリアンとか宇宙船も出てくるのだが、実は話の骨格は人工知能のことなのだ。人工知能がもたらすリスクを描きながら、それを克服する方法があるはずだと問いかけ、AIを建設的に捉えようという内容なのだ。

考えてみればDeepLの人工知能はこの小説の数少ない(笑)読者の一人(一つ?)だから、自分達を肯定的に捉えている小説を売ってやろうという動機が働いても不思議ではない。

と言いながら、真実はたぶん、決まり文句のように何度も使われた英語のフレーズを引っぱって来たということだろうし、UKにしたのは小説がイギリス英語だからということに過ぎないだろう。

しかし、AIとこれだけ密着して作業をしていると、なにやら単なる機械ではない何かの存在を感じてしまうことがあるのも事実だ。

 

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英訳の経緯はこちら

 

DeepL小説、Grammarly小説の未来(7)ー AI翻訳で出会った現象 2/3

 

3.DeepLの不思議な振る舞い

しれっと一文飛ばす

右側の翻訳欄の文章をよく見てみると、左側の入力文のうちの1つの文の訳が全く欠落していることがある。

理由はいろいろあるのだろうが、一つはうまく訳せなかったのかなと思わせるもの。元の文がその一つの文自体の中で矛盾した構造になっていて、意味をなさないような場合は飛ばしてしまうようだ。

他の例では、左欄にペーストした英語のパラグラフの中の、一つの文の末尾のピリオドの前に、余分な半角のスペースが1つ入っていた。それに気づいてスペースを削除すると、欠落していた文の訳が右側の翻訳文の中に現れた。

また、私は会話文の括弧にはダブルクォーテーションマークを使ったが、その最初の「”」のあとにスペースを入れないと、日本語に訳してくれないなんてのもあった。

あれだけ大胆な意訳をしてくれるのに、妙に細かいところにこだわるものだなあと不思議な感じがする。

前に出てきた訳と違う

これは仕方ないというか、AIたる所以だろう。むしろAIの長所とも言えると思う。つまり常に学習をしているのか、それともいろんな翻訳の可能性を提示するために、意図的に揺らぎを与えられているのではないかということだ。

また、元の文のほんの一つの漢字をひらがなに変えただけでも、訳文が異なってくることは普通にある。

正反対の意味の翻訳をする

これは注意すべき点だ。なぜだかわからないが、noとかnotなどの否定の言葉が入っているのに、それを全く無視した肯定の意味の翻訳を、ごくまれにだが出すことがある。また、noやnotを使わない文でも、意味を逆に捉えて翻訳しているケースも見つけた。

随分前に2つの例をスクリーンショットで残してあったが、今同じ文章を入力すると正しい翻訳をするようになっていた。学習をしたのか、それともあの時は大量の翻訳をさせられて疲れていたのか?

とある文字列に対して妙なフレーズが出てくる

これも注意すべき点だが、お世話になったDeepLの名誉のために言っておくと最近は全くない。一年前、翻訳を初めてすぐの頃の話だ。

具体的には忘れてしまったが、ひとつは、たしかクォーテーションマークと1つ2つのキーを入力すると妙なアスキーアートのようなものが翻訳欄に現れた。

もう一つは、翻訳の中に全く関係のない3行ほどの文章がでてきたことだ。これも同じ文章が出てくるのを何度か経験した。実はこの文章は最初に一括翻訳したファイルに残っていたので、今見てみた。なにか、カスタマーサービス用の文章みたいだ。

しかし、最近は出現しないと言ったものの、今度はこの残っていた文章をコピーしてDeepLに翻訳させてみたら、これまた妙な全く関係のない文章が翻訳欄に現れた。

このブログを書き始めるにあたって、あらためてDeepLの利用規約を読んでみてわかったが、前にも書いた通り、無料版に入力されたテキストはAIの訓練にも使用されるそうだ。さらに、ユーザーが施した翻訳文の修正も使用されるらしい。

一年前といえば、DeepLの日本語サービスが始まってからまだ一年。利用者数もいまほど多くなかっただろうから、その頃に無料サービスを集中的に利用した人の影響が残っているのかもしれない。

つづく

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