DeepL小説、Grammarly小説の未来(6)ー 翻訳初期の問題点 1/2

前に書いたとおり、まず最初に全文を一括してDeepLで翻訳した。そこから作業をスタートして、最初に考えなければならなかったのはこんなことだ。

必ずしもDeepL、Grammarlyを使った翻訳に限った話ではないが、翻訳ツールを使うと今まで存在しなかった英文がいきなり出現するので、問題点を早期に見つけることができると思う。

1.用語の統一

翻訳をする上では当たり前だが、大まかにDeepLの翻訳チェックを進めていくうちに、いくつか決めなければならないことがわかった。

ちなみに、DeepLは日本語の単語に対して複数の英単語があてはまる場合は、ランダムな感じで異なる訳語をあちこちに出してくる。勝手に用語統一はしないようになっているようだ。

(1)固有名詞の英語表現

登場人物の名前については日本語に合わせて決めてしまえばいいが、物語に出てくる組織名などについては、適切な英文を考えなければならない。最初にこれに取り掛かった。

一括翻訳した英文でも数通りの表現が全文の中に散らばっている。Theをつけるのか付けないのか、同名の組織が実在しないかとか、ネットで調べながら決定した。

同時に英文では長ったらしい綴りになることも多いので、略称も必要だ。日本語版でも一部で略称は使っていたが、日本語での略称だったので、これを英文版でどう表現するかなども考えた。

(2)固有名詞以外の表現

人物

なぜか自分の癖で、登場人物に固有の名前を付けるのは最低限にして、頻繁に出てくる人物でも固有名詞を付けない者が多い。

一例を挙げると、日本語版では「髭の男」というのが出てきて、この名前一つで通しているのだが、英語ではどうも一つで通すわけにはいかなかった。一括翻訳で出てきた訳を参考に、the man with the beardというのとthe bearded man という2つでいくことにした。

英語では同じ単語や表現が短い間隔で繰り返し出てくるのを嫌うようだ。たしかに、一般的な単語でも何度も出てくるとしつこい感じがして、意味は同じでも違う表現を使ったりする。日本語でもそれは同じだろうが、英語ほどは気にならないように思う。

出来上がった英文の日本語訳をDeepLで確認する時、この髭の男の訳には、その通り髭の男と出てくることもあるものの、髭男や髭男爵という訳が出ることも多かった。なぜ髭男爵なのかわからないが、AI翻訳機ならではの現象だと思う。

用語集が使えればいいんだがなあ。

2022.5.7追記:今日DeepLを見たら日本語←→英語の用語集の機能が搭載されていました!

例えば日本語版では大半は「宇宙船」という言葉で済ませてしまうものが、英語だとspacecraft、spaceship、starshipなどの表現がある。各々の意味を調べて、どこにどの訳を使うのかを決めた。

それからこれは初期ではなく、ほとんど終盤に知ったのだが、日本語で「星」という表現をしているところで、英語のstarばかり使うのは全く間違っていることがわかった。

英語ではstarは恒星のことで、惑星であるplanetとは明確に区別するらしいのだ。夜空を見上げて恒星か惑星かわからないような時は、starでも良いみたいだが、そうでない時ははっきり書き分けるということだった。

こういうのは、DeepLもGrammarlyも指摘はしてくれない。結局全文検索を行なって該当部分を書き直した。

つづく

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アダムの選択(亜東 林)

 

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英訳の経緯はこちら

 

DeepL小説、Grammarly小説の未来(5)ー 翻訳はこう進めた 2/2

 

2.第2ラウンド以降

第1ラウンドでできあがった全体版の英文をチェックしていった。もちろん整合を取るため、日本語版も参照しながら。

(1)初期

日本語と英語の根本的な相違

初期のころはやはり翻訳自体に必死で、英語の質を上げることに悪戦苦闘していたように思う。

別の機会に詳しく書きたいが、英文、それも小説という形で書く時に、根本的に日本語とは異なる部分をどう処理すればよいかがわからなかったのだ。

例えば、語り手の記述の時制だ。過去形で書くのか現在形も使ってよいのか。それから、日本語の男性言葉、女性言葉。日本語で書いた時にはこれに大幅に頼っていたことが、英文化して初めてわかった。

(2)中期〜後期

内容面の問題

2〜3ラウンドを重ねた後からは、翻訳の質もさることながら、内容に問題を感じ始めた。

DeepLとGrammarlyの話からは外れるが、翻訳をしているとストーリーの端々に矛盾点を見つけたり、冗長な部分や脱線している部分が目についてくる。長すぎて日本語版でも追いきれなかったのだ。

どこかで諦めることも必要なのだが、これだけの作業をやった後では、やはり見逃すのには忍びなく、結局日本語版と合わせて修正をすることにした。

日本語版には翻訳スタート時点からの修正履歴を全て残してあるが、結局大小合わせて修正点は1000か所以上にもなっている。一つの章の半分ぐらいを書き換えたこともあった。

細部の品質、配慮

他にも用語の適切性でわけがわからなくなったこともある。monitor, screen, on display, on the displayの違いとか、pipeとtubeの違いとか、speededとspedの違いとか、今でも頭の中がもやもやしている。

また、よせばいいのにストーリーの中では神という言葉を何度も使っている。日本語で書いている時にはさほど気にならなかったが、英語で外国人が読むことを想定すると、宗教的な話はやはり注意しなければならない。

Godなのかgodなのかgodsなのか?deityという単語もこの時初めてDeepLに教えてもらった。

しかし今は便利になったもので、だいたいの疑問にはネットが答えてくれる。ただ、日本語で検索していてはあまりヒットしないので、英語で検索して答えを見つけることもしばしばだった。そんな時にもDeepLは活躍してくれた。

(4)最終期

気になって仕方がない

最後の2ラウンドはやるつもりはなかった。もう十分だ、これ以上無理だということで第8ラウンド終了をもって、完成にしてしまおうと思っていた。

で、終わってからやれやれと思って、自分がどれほどのことをやったのかともう一度最初からパラパラと眺めてみるのだ。

この頃にはamazonが提供する編集ツール(本文の他にも、コピーライト、目次、献辞や著者バイオの部分などをかっこよく仕上げてくれる)も使っていたので、どうしても仕上がり具合を見ることになる。

すると見つかってしまうのだ。あ、ここ間違ってる、と。しかもマイナーなものならまだしも、ちょっとこれはひどいなんていうのが見つかるとどうしようもなくなる。

ということで、また初めてしまった。そうすると更に、間違いではないがもっと良い表現ができないかとか、同じ単語が頻繁に出てくるとか、文が長すぎるとか、その他の品質面での問題も気になってくる。

無限のスパイラル

つまり、1ラウンドこなすごとに、自分のスキルも上がっていくのだ。

だから、ラウンドを終えて最初に戻った時、今よりも1ラウンド分スキルが低かった時の英文を見ると、ここはこうすればスッキリするのに、とか、同じ単語が近くに三回も出てるじゃないか、なんてのが見えてしまうのだ。

結局これをやり続けると無限のスパイラルを登っていくことになる。だから、最後ははっきり期限を切ってそれまでとは異なるやり方をした。

まず英文を数ページ分ずつDeepLにかけ、次に右欄の日本語訳を読んでみる。ここでおかしな訳があると、その原因をつきとめて修正。

さらに今度は左欄の英文を、前に書いた通り読上げ機能で読んでもらう。もう短い時間内に、自分の目で細かい字を追って読むのは疲れてしまって無理だ。それに、そういうやり方をすると木を見て森を見ずになってしまうだろうと、自分に言い聞かせてやった。

そうやって、質を上げ(られたかな?)、残ったミスを潰していった。まあ、それでもやっぱりミスはたくさん残ってますけどね。

 

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DeepL小説、Grammarly小説の未来(5)ー 翻訳はこう進めた 1/2

300ページ超の自らの小説を英訳したわけだが、全体はこんな感じで進めた。最初から予定した部分もあるが、結果としてこうなったというのが大半だ。

0.原則

場所によって翻訳の力の入れ方にムラが出てはいけないので、原則として小説の最初からスタートして、一定の精度で翻訳を進めながらそのまま最後までやり切る。これを1ラウンドとしてラウンドを重ねることにした。

結局、これを10ラウンドやることになった。

1.第1ラウンド

(1)精度

最初はとってもラフに1ラウンドやってしまおうと思った。どんな感じでやれるかをまず知りたかったからだ。

この方針はある面では良かった。第1ラウンドの三分の一ぐらいまでスピード重視でやったところで、全体にかかわる様々な問題が早期にわかったからだ。

これについては、別のページにも書いておきたいと思うが、例えば固有名詞の表記の統一や日本語、英語の根本的な表現方法の違いなどだ。

(2)翻訳ムラ

第1ラウンドの半分ぐらいまでくると表記統一の問題なども出尽くし、悩みながらも一貫した書き方の方針なども仮に固めた。また、DeepLとGrammarlyの使い方にも慣れてきて、結構力を入れて翻訳をするようになってしまった。

スピードも落ちラフに第1ラウンドを終わらせるという方針から外れ、良かったのか悪かったのか、やはり翻訳にムラが出てしまった。

どうも後半の方が出来がいいのだ。その印象は第1ラウンドを終え、その後数ラウンドを重ねたあとでも感じることになった。

やはり、一番最初の骨格を決めるときにしっかりやっておくのが大事なようだ。もう一つは日本語の問題かも知れない。物語の前の方よりも、後ろの方が日本語としての書き方が充実しているのかもしれない。

(3)翻訳手順

一番最初に全文をDeepLで一括翻訳した。試行錯誤だったのでやや記憶が薄れているが、第1ラウンドでは、この全体版を直接編集していくというよりも、全体を見るための羅針盤のように使ったと思う。

つまり、英文に訳されてしまったあとでは、前に書いたDeepLのプルダウン機能が使えないわけだ。

確かに最初は全体版の英文を全部自分の手で修正していったのだが、ロクなことにはならず、しばらくしてプルダウン機能の便利さを知ってからは、こちらに頼ることになった。

安定した頃のやり方は、数パラグラフずつ日本語版を切り取ってDeepLで翻訳。プルダウンを使って必要な修正を行うが、その際には全体版の英文とも見比べ、良い方の表現を導入。

その後Grammarlyで文法チェック・修正、再度DeepLで修正文の日本語訳の意味やニュアンスを確認、という繰り返しを何度か行い、出来上がったら全体版の該当部分に上書きペーストしていった。

これだけでもややこしいが、実際には第1ラウンドでは主語や固有名詞、人称代名詞の性別などを書き換えていかねばならず、複数のDeepLウィンドウを立ち上げて修正用にしたり、部分的な訳の検討を行ったりした。

ちなみに、右側の欄ではプルダウン機能を使わずに直接修正もできるのだが、続けているうちに良くないことが起こったりするので(なんとも説明し難い)、直接修正は徐々にやらなくなった。

つづく

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